最近はSpotifyのプレミアム版へ登録してしまい、どんどんサブスクが増えてしまうことに危機を感じているピータックです。最初の3か月は無料なので、ちょうどシンガポールに行く前に解約すればいいかと考えておりますが、最近のTech企業のマーケティング戦略は予想の斜め上に行くので油断は禁物です。
さて、東京で一人の時間が増えたので、本や漫画を読む時間が増えました。英語の勉強と並行しつつ、この間に少しずつ積読の課題図書を崩していければいいなと思います。
「若者よ、アジアのウミガメとなれ」加藤 順彦
加藤さんは「シンガポールを拠点に日本人スタートアップの支援を行うエンジェル投資家」という一言では表せないくらい数多くの事業をされ、シンガポールの永住権も取得しておられ、私の勝手なイメージでは「シンガポール和僑会のドン的な存在」となっています、実際にお会いしたことはありませんが。
この本を課題図書に選んだのはtwitter上でフォローしているNUS MBA在校生のMASAさんの以下のツイートが流れてきたから。
今さらながら読ませて頂きました。共感・感化の嵐。その中でも「大局を見極める」重要性は再認識させてもらいました。
— Masa / 🇸🇬NUSMBA 不動産 (@m_masalog) June 3, 2020
・GDPなどマクロデータで大局把握
・東南アジアの成長はいつまで続くか
卒業後は東南アジアでビジネスしたいと考えているので、その輪郭をしっかり捉えておきたい。勉強勉強。 pic.twitter.com/aImo2l8EkC
MASAさんは、TwitterでCovid-19の状況下におけるNUS生活をリアルタイムで流してくれるので、日本でお預けをくらってる入学待ちの私のような人間からすればすごくありがたく感じております。まだお会いしたことはないですが、東南アジアの不動産業界で戦おうとしているアグレッシブな方で、先日参加したアゴスのMBA夏祭りにもMASAさん経由で参加させていただきました。これも含め、少しずつですがTwitterとBlogによるネットワーキングの効果が出てきている気がします。でもTwitterってつくづく難しいですよね、渾身のツイートが0いいねで終わった虚しさと言ったら。
閑話休題、シンガポールの日本人スタートアップの現状を垣間見えるかなと思って読んでみたこの本ですが、非常に面白かったです。
まず、あのコピーライター界で有名な田中泰延さん(自称:青年失業家)が巻頭解説を書かれており、「春夏冬 二升五号 大阪城」の書き出しから始まる解説自体が一つの読み物となっています。
そこから始まる加藤 順彦の怒涛の人生劇。いわゆる事業家としての浮き沈みをジェットコースターのような速度で経験されており、一般的な日本人の人生の4、5回分くらいをすでに生きているような生き急ぎぶりでした。その中で強調されておられたのは「どの環境に身を置くのか」という戦場選択の重要性。加藤氏はこう述べておられます。
皆さんにとっても「普通」っていうのは、いわゆる社会の平均値ではなくて、どんな人と付き合っているか、どんな価値観の人の周りに居るかということが、自分にとっての「普通」になっていくんです。すなわち所属するコミュニティが自分自身を形成するということ、です。つまり本日は「普通の」閾値を上げてほしいって話なんです。
加藤氏曰く、会社を立ち上げ、上場まで持っていくような人間が回りにいる環境に身をおいている自分にとって、自分の人生は「普通」だと。そして、自分をそういう環境におくことで「普通」の閾値が上がれば、とんでもない流れに乗れるのだと。それは加藤氏が拠点をシンガポールに置いていることと明確につながっているのでしょう。加藤氏のもっともすぐれた能力は、企業であれ、国家であれ、上昇気流に乗っている場所を見つけ、リスクに対する恐怖を乗り越えてその身をその場所に置けるところにあるのだろうと思います。そして、この力は自分がMBAに行って是非手に入れたい能力だと思います。いや、新しく手に入れるという言い方は自分の中で少し違って、20代前半では自分も持っていたが、今となって失いかけているその能力を取り戻す、という方がしっくりきます。
大企業のサラリーマンという身分に10年以上身を置くなかでリスク回避の方法がやたらとうまくなってしまい、リスクに身をさらすことを忘れてしまった自分がいて、だからこそ加藤氏の生き方に「嫉妬」を感じているんだと思います。そして、この嫉妬は加藤氏が生きたバブル期に対する嫉妬でもあると思います。経済が膨張していくなかでビジネスをした経験というのは、80年代生まれ以降の世代にとっては昔話でしかなく、だからこそ、僕らはアジアを目指すのでしょう。加藤氏の生き方が魅力的に見えたり、同時代の田中泰延さんが書く文章に感情を揺さぶられたりするのは、その背景にバブルという時代を見ているからなのかもしれません。
さて、そんな加藤氏はわれわれのような若手に何を求めているのでしょうか。海外で起業し、中国に凱旋する人たちを、中国では尊敬の意を込めて『ウミガメ』と呼ぶそうです。外界に出たウミガメが産卵のために生まれた海岸に戻ってくることからこう呼ばれているのでしょう。アリババ創業者のジャック・マー氏や百度の創業者のロビン・リー氏らがその最たる例でしょう。西欧で自身の能力に磨きを加えて帰国し、中国の経済成長をさらに加速させた彼らは間違いなくウミガメでしょう。そして、加藤氏はそのような存在に日本の若者もなってもらいたいと期待をこめてこう呼びかけています。「若者よ、アジアのウミガメとなれ」と。
しかし、これは自分のなかでも悩みの一つではあるのですが、成長市場を求めてアジアに出た日本人ウミガメは、本当に日本に戻るのでしょうか。ノスタルジーや日本国内に残してきたネットワーク等を除いて考えたとき、日本は今の中国のようにビジネスをするうえで魅力的な地域であるのだろうかと。もちろん、成長軌道に乗れていない日本に戻り、自身の力で日本に活力を与えるというのが正しい考え方かもしれないですし、自分の中にもノブレス・オブリージュの気持ちは強く、自分をここまで成長させてくれた環境に恩返しを、という感情はあります。しかし、それは一方で、成長市場に身を置いてその流れに乗るという戦略に反しているのではないかと。
まぁ、その辺りは少しでも成功してから考えろと言われそうですのでこのくらいで。
この本を読み終えた後、関連書籍としてAmazonさんに紹介されたのが「なぜ、私達はシンガポールを戦場に選んだのか?」という本です。kindle unlimitedの会員として無料だったので躊躇せずにジャケ買いしました。著者に関さんの名前も入っておられたので、これは買いだと。ナイスなサジェスト機能ですね。ちなみに関さんともお会いしたことは無いですが、最近voicyを始められており、勝手に身近に感じております。興味がある方はこちらもチェックされるのもよいかと。
この本は、新たにシンガポールに進出した10の企業の事例を紹介しつつ、コラム的にシンガポールに進出する際に知っておくべき税金の話や統括拠点を置くうえでのシンガポールのメリットを紹介しています。日系企業の進出をサポートしてきたインキュベーションオフィス“CROSSCOOP SINGAPORE”と、シンガポール最大のビジネスフリーペーパー“AsiaX”のタイアップ企画だそうです。ここで紹介されている企業は業種も様々で、もし自分の会社が進出したら同じ事態になっていたかも、みたいに考えながら読むのもいいかと思います。ちなみに、シンガポールをはじめ、東南アジアではフリーペーパーがすごく充実していて、特にビジネス系のフリーペーパーは非常に変化の激しい東南アジアの国の状況をフォローするのにすごく役立ちます。私もタイではArayZさんにいつも助けられました。
「なぜ、私達はシンガポールを戦場に選んだのか?」については、シンガポール進出を支援する機関の発行物であるので、シンガポール進出を促す内容になっており、シンガポール進出のデメリットの話は少なく、「これを読んだ海外に進出したことのない中小企業はコロッとシンガポールに進出してしまい、その後、駐在員のリビングコストに苦しんじゃうんじゃないかなー」と思っていましたが、きっちりとコラムで私がいつも考えていることもしっかり紹介してくれていました。
より重要なことは、本社側で撤退基準を決めていないことで、ずるずると現地法人への資金補てんを続けてしまい、本社の資金繰りにも悪影響が出てしまうまで追い詰められてしまうパターンです。月次単位で資金繰りを見ていると、事業を継続することだけが目的になりがちで、俯瞰して事業全体の状況が分からなくなってしまいます。撤退の意思決定が遅くなってしまう再生途中においても、本社サイドでの撤退基準に抵触した段階で、撤退を意思決定する勇気も必要だと思います。
海外への進出計画を立てる上で撤退基準を決めるというのは最重要事項ですね。それが時間で区切るにしろ(6年以内に償却前で黒字化出来なければ撤退)、お金で区切るにしろ(総投資額の限度は500百万円まで)、それを明確に決めておくことは、あらゆるステークホルダーに対する説明責任といううえで重要です。だって、日本で働いている従業員からしたら、自分たちが油にまみれて稼いだ利益を海外法人があっという間に溶かしちゃうわけですから。まあ、このあたりは別の機会にじっくりとまとめてみたいですね。MBAブログから中小企業診断士ブログに変わっちゃいそうですが。
それでは、いつもながらとりとめのない内容になってしまいましたが、このあたりで。
「【読書感想文】『若者よ、アジアのウミガメとなれ』加藤順彦」への1件のフィードバック